2023.11.10 Friday
2017.03.28 Tuesday
十年の疲労
もう限界なのだと、前にも書いた。
メロスはその夜、一睡もせず十里の路を急ぎに急いで、村へ到着したのは、
翌 る日の午前、陽は既に高く昇って、村人たちは野に出て仕事をはじめていた。メロスの十六の妹も、きょうは兄の代りに羊群の番をしていた。よろめいて歩
いて来る兄の、疲労
困憊 の姿を見つけて驚いた。
風態なんかは、どうでもいい。メロスは、いまは、ほとんど全裸体であった。
呼吸も出来ず、二度、三度、口から血が噴き出た。
太宰治疎開の家の公開を始めて十年間、お客様の前で開いてみせた本が
もう駄目だ。
テープや糊で補修してここまで耐えたが、
開くたびに、ぱらと足元に表紙の欠片が落ち、ページの折り目が裂け、
きのうついに
一歩も走れなくなった。
メロス…限界。
十年は友の待つ刑場の門であったと思えばあっぱれ
王にも褒められよう。
特別なセレモニーはないが、太宰屋の本棚に殿堂入り。
二代目にたすきをわたしてゆっくりお休みくだされ。
満身創痍の英雄にもいつか会いに来てください。
2023.11.10 Friday